経営者は誰のために働くべきなのでしょうか。この答えを真剣に考えたことがないという方は、この機会に改めて考えてみてください。経営理念の作成においても、この答えが大切になります。経営者であれば、経営の目的だけではなく、誰のために働くのか、誰のために経営するのかを意識することが重要になるのです。
そこで今回は、経営者は誰のために働くのかについて詳しく解説していきます。経営者が果たすべき役割も考察していきますので、ぜひ参考にしてください。
経営者は誰のために働くのか
優れた経営者は「顧客のために働く」とされています。ただし、自分の利益を優先する経営者や、経営の実態に興味を示さない経営者も少なくありません。
経営者は従業員のために働くべきと考える方も多いでしょう。従業員からの不平不満を抑えるために「経営者は従業員のために働く」と言いたくなる気持ちはわかりますが、従業員の満足度が顧客満足度の向上に結び付くとは限りません。
しかし、会社に不平不満がある従業員は経営者に意見をしてくることがあります。そのため、経営者は従業員の福利厚生に注力してしまうのです。
一方、不平不満を持っている多くの顧客は、他の商品やサービスに移行してしまいます。顧客には、他社製品に移行するという簡単で強烈な選択肢があるのです。その結果、従業員の満足度を高めても業績は悪化してしまいます。
中長期的に業績を高めるためには、「顧客満足こそが従業員を満足させる最大要因である」というスタンスを崩してはいけません。
会社は誰のものなのか
会社は株主のものであるという考え方が基本です。ただし、経営者や従業員、顧客、地域社会のものであるとする意見もあります。
意見が分かれる理由としては、「誰のもの」の「もの」という言葉に対する解釈が異なるためです。「もの」が「所有」という意味を表わすのであれば、「会社は株主のもの」が正しい答えとなります。
しかし、現実的には会社は株主のものとは言えません。企業には多くのステークホルダーがいますが、株主の地位は、どのステークスホルダーよりも低くなります。
たとえば、取引先や従業員は契約によって権利が守られています。債権者の地位も守られています。一方、株主の地位は債権者よりも低くなるのが現実です。そのため、株主は利益の分配を受けるのが最後であるにもかかわらず、損失は最初に負担することになります。
株主の権利に帰属する自己資本部分は、ステークホルダーの利益を守る危険準備金とも言えるでしょう。従って、「会社の所有権」という意味合いからすれば、株主が企業を所有しているとも言えないのです。
ステークホルダーが会社の所有者とも言えません。株主の権利は劣後しますが、一定の保護は必要です。株主は、ステークホルダーに対して対価を請求することも可能になります。
いずれにしても、最劣後の地位にいる株主に対して利益が帰属しなければ、結果として不公平になるのです。経営者は、この事実を把握したうえで、利益の均衡を図るように経営しなければいけません。
なお、「もの」という言葉を「誰のためのものなのか」と解釈すれば、経営者や従業員、顧客、地域社会なども、その候補として挙げられます。取引先や融資している金融機関なども対象になるでしょう。
ただし、所有と経営を分離させた形態となっている株式会社は、株主によって所有され、経営陣によって運営されるものです。しかし、労働者は雇用契約によって業務を行なうだけの存在であるため、法的には株主と経営陣が内部であり、労働者は外部という構成になります。
経営者が果たすべき役割とは
経営者が果たすべき役割は、会社に関わる人や組織を幸せにすることです。業績第一主義を唱える人も少なくありませんが、業績の向上はあくまでも「結果」に過ぎません。
近年では、民間企業の果たすべき役割としてSDGsのような目標も掲げられています。また、ガバナンスコードでは、ステークホルダーの利益を尊重すべきとされています。経営者には、社会との関係や会社の関係者に対して幸せを確保することが求められているのです。
ビジネスが社会を通じて行われている以上、経営者は外部関係においても社会の利益になることを意識しなければいけません。株主に対する社会利益実現の方策や効果の開示も必要でしょう。
ただし、株主の利益と社会利益は対立・競合する概念ではありません。あくまでも別々の側面で同時に存在するものです。そのため、経営者や経営陣が株主利益を追求する際には、社会利益も同時に考えることが求められます。
会社が巨大化して個人でコントロールできなくなっている場合は、原点に戻って達成すべき社会利益を再認識する必要があるでしょう。
まとめ
経営者が誰のために働くのかに対する答えは「顧客満足」となります。顧客の満足度向上は業績や従業員の満足度向上につながりますが、従業員の満足度向上は業績向上につながるとは限りません。
そのため、経営者は顧客のことを最優先に考えたうえで、従業員をケアしながら経営を続けることが重要になるのです。